033294 ランダム
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モモちゃんち

モモちゃんち

ツバメの部屋


ツバメと ヒトと ネコと 自然と。
  

「よかった。きのうも1日生き延びてくれた。」

神様、ほんとにありがとう。心から思う。。。
ほっ。と、肩の力が抜けて、会社の玄関を開ける。
「おはようございます。」
これが、初夏の私の日課。

毎年、会社の軒先にツバメが巣をかける。
それは、私たちの会社ができるずっと前、
同じ建物が、まだ商店だった頃からの習慣。
ヒトは変わり、町も変わり、家が建ち、工場がつぶれて、
店は閉まり、コンビニが建った。
役場の壁の色は新しくなり、小学校の桜は今年も少し早咲きだった。
この町は、日本のどこにでもある、普通の町だ。

大都会でもなく、大田舎でもなく…。
大型ショッピングモールが建ち、車で数時間で中都市にでる。
田んぼも畑も、だんだん少なくなって、
そのかわり、キレイで新しい住宅地ができつつある。
そんな、普通の町 にすんでいる。

ヒトは変わって、町も少し変わって、
それでも ツバメは毎年同じ場所に帰ってくる。



5月。そろそろ日差しが暑さを増してくる頃、
スズメじゃない影がヒュッッ と頭上を横切っていく。
  「ああ。。。 おかえり。。。。」 心の中でつぶやく。
少し嬉しく、すこし悲しいきもちで、
民家の屋根の向こうに消えていくまで、ツバメをみつめる。



「また、この季節か……。」
つぶやくのは、他の誰でもない、自分に向けた、苛立ちの言葉。。。
自分の無力さを感じる季節がまたきたんだなぁって。

それは私が入社する前からの出来事。
その建物は古かった。
もうボロ家と言ってもいい。
雨漏りはするは、ネズミは出るは…。  

でも、1つだけ イイコト があった。。。
それがツバメだった。
ずっと昔、ここが商店で、ヒトがたくさん出入りしてた頃から
毎年ツバメが巣をかけていた。

入社した年。 ツバメを見つけた時は、すごくすごく嬉しかった。
あの小さな体で、飛び回る姿。 幸せの象徴。。。
ちいさなツバメ…。
チビ鳥が、あの泣き声でお母さんを呼ぶところが見られるんだ! そう思った。
このボロ家もまんざらじゃないな。。。
なんて、ちょっとボロ家を見直してしまった。

でも、その想いは、あっさりと裏切られた。
巣が、誰かにたたき落とされていたから……。
(それも、1回や2回じゃない。)毎年、毎年。。。
従業員の監視をすり抜けて…。
毎年、巣ができるたび、落とされ、卵が割れて、
時にはヒナが1晩ですべて連れ去られ。。。
猛暑には卵が孵らず。。。

無性に悲しかった。自分が無力に思えた。
自然界の法則。と諦められる時は少なかった。
あきらかに、ヒトが犯した罪だったから。。。
悲しくて、悲しくて、そして無性に怒れた…。
なんで、こんなことするんだろね。。。
   誰が何の目的で してるんだろ。。。。

ただ。ただね。。。
それでも、親鳥達はあきらめないんだよね。。。
何度でも、何度でも、巣を作り直し、卵を産み、
落とされたら、また1から作り直し……。
北へ旅立つ ぎりぎりまで諦めなかった。

ちいさな小学生がいたずらに 巣をたたき落としても、
誰かに、ヒナを連れ去られても…。
なんにも言わず、ただひたすら
空を飛んで、巣材を探しに行った。 
あきらめなかったんだ。。。。

想像してみて。。。
突然わが家を失い、
最愛の子供を連れ去られ、
立ち直って建てた家を、誰かの都合で壊される。。。
「そんなの擬人化だよ。」って、クールにかわさないで…。
想像してみて。 そんなだったら、自分ならどうするかって。。。

私だったら、きっと誰かを恨みたくなる。。。
犯人がいるなら、犯人を……。
いないなら、自分を責めるかな?
それとも、八つ当たりとわかっていながら、周りの誰かに怒鳴るかな?
自分の気持ちをどこかに吐き出さなくちゃ、きっと私は壊れてく。。。

でも。…でもね。 ツバメは違ってたの。
ヒトよりずっと強いんだ…。
    私たちよりずっとずっと強かった。。。

自然界に生きる者は みな持っている強さなんだ。スゴイね。
自然界じゃ、当たり前のことなのかもしれない。
ヒトが擬人化するから? 美化するから、大げさに見えるだけ?
たしかに、そうかもしれない…。
私が、勝手に一喜一憂してるだけなのだ。
私は、それでもかまわないと思う。
それが「ヒト」だから……。。。

私はヒトで、むこうはツバメで、モモはネコ。
みんな違ったルールの中で生きている。

それでも1つの町で生きてるんだな。 小さな頭を遠目に見ながらつくづく思う。
一緒に生きてる。 だから友達なんだなぁって。



ツバメ達が、北へ旅立つ頃……。
この町で新しく生まれた命たちは、親と見分けがつかないくらい立派なって
スイーッ と、あかねの空を横切っていく。
「ああ。いってらっしゃい。 また来年ね。」
心の中でつぶやきながら、北へ旅立つ友達を見送った。
道の向こうの、神社の影に見えなくなるまで。。。

本当に来年、来てくれるのか? あの場所に来てくれるのか?
それは、誰にも分からない…。
それでも、私は待ってみる。 この町で、待ってみる。

そして…毎年。。。(今年は、来ないのかな。) 諦めようとする私の前に
ツバメ達は帰ってくる。。。 風に導かれて…。
まるで、「ただいま。ひさしぶり!」とでもいうように……。。。
だから、私もまた、立ち尽くしたまま 「おかえり。」 と言う。。。

おかえり。 ようこそ  この町へ。

   



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